心理学試験のための問題と資料

公認心理師試験をはじめとした、心理学試験のために作成した問題をのせています。問題は専門書から一部抜粋し変更して作成しています。お役に立てると嬉しいです。

心神喪失者医療観察法(問題240~245)

精神科医療と深い結びつきがある刑事政策に、“心神喪失医療観察法”があります。

 

医療観察法”とも言われますし、現場の人は“医観法(いかんほう)”と略して呼んだりします。

 

この法律ができたきっかけは、池田小学校児童殺傷事件だったと記憶しています。

犯人が精神科に通院し、治療を受けていたこともあり、当時、精神障害者の治療や精神科医療に対し、社会からものすごい批判がありました。

(この事件については、犯人の精神鑑定をした医師が鑑定書を書籍として公開しています。ご興味のある方はご覧ください。精神鑑定、心理検査などの勉強になるほか、医療観察法を考えるために非常に参考になる書籍です

 


宅間守 精神鑑定書――精神医療と刑事司法のはざまで

 

このようなきかっけでできた、心神喪失医療観察法(以下、医療観察法)。

では、医療観察法の概要とシステムを確認しましょう。

Twitterで文字制限のため書ききれなかったので、ブログでごめんなさいです(*´Д`))

 

 

 

問題

問題240 次のA~Dに当てはまるものを選びましょう。

まず本法は、その1条において目的規定を置き、「この法律は、心神喪失等の状態で重大な他害行為(他人に害を及ぼす行為をいう。以下同じ。)を行った者に対し、その適切な処遇を決定するための手続き等を定めることにより、継続的かつ適切な(A)並びにその確保のために必要な観察及び指導を行うことによって、その病状の(B)及びこれに伴う同様の行為の(C)の防止を図り、もってその(D)を促進することを目的とする」

1.処罰 2.再発 3.医療 4.社会復帰 5.治療 6.改善

 

 

 

 

 

 

 

解答

問題240 解答

(A)ー3.医療

(B)-6.改善

(C)-2.再発

(D)-4.社会復帰

(出典:よくわかる刑事政策 ミネルヴァ書房・p142)

 

 

いかがでしたでしょうか。

 

きっかけはどうあれ、医療観察法は、①犯罪を犯した精神障害者に適切な治療を受けさせ、②病状の安定により再犯を防止し、さらに③社会復帰させましょう、という目的を持っていると理解できます。

 

ここで、

「なんでわざわざ、犯罪を犯した後に治療を受けさせるの?犯罪を犯す前に治療を受けさせればいいじゃないか」

という意見がありそうです。

 

しかし、精神疾患は今でも偏見が強い病気です。

先に、インフォームド・コンセントの部分でも説明したように、精神疾患であれ患者さんが治療を拒否すれば、それ以上病院は何もできません。

そのため、未治療の精神疾患の患者さんが結構いるのです。

 

また、

精神障害者=将来の犯罪者なのだから、強制的に治療を受けさせるべき”という考え方をしたならば

まさに偏見であり、人権侵害です。

 

多くの精神障害者は犯罪とは無縁のまま、一生を過ごされます。

 

 

個人的には、医療観察法は未治療の患者さんをフォローする、という意味もあるんだと思っています。

(この辺は、日本の精神医療や精神保健福祉の歴史を勉強してくださいね(*´▽`*))

 

 

では、医療観察法どういう場合に適応されるのか、確認しましょう。

 

 

問題

問題241 医療観察法について、A~Gに当てはまるものを書きましょう。

 本法の対象者は、(A)、(B)、(C)、(D)、(E)(以上は未遂も含む)

、(F)、(G)(軽微なものを除く)等の他害行為を行った者で、行為時に心神喪失心神耗弱で検察官が不起訴とした者、及び、心神喪失心神耗弱により無罪または有罪(執行猶予つき)の判決が確定した者である。

 

 

 

 

 

 

 

 

解答

問題241 解答

(A)ー殺人

(B)-放火

(C)-強盗

(D)-強姦

(E)ー強制わいせつ

(F)ー傷害致死

(G)ー傷害

(出典:よくわかる刑事政策 ミネルヴァ書房・p142)

 

 

いかがでしたでしょうか。

全部書けましたか?

 

公認心理師現任者講習会テキスト2018(金剛出版)では、強姦、強制わいせつ以下が書いてありませんでしたが、筆者は、できれば医療観察法の対象行為全てを押さえておいた方がいいと思っています。

 

これらはいわゆる“重大犯罪”と呼ばれるもので、繰り返されると社会的損失が大きいんですよね。

なので、特にこれらの犯罪を犯した患者さんは、しっかり手当てして、再犯を防止しましょう、ということなんだと思います。

 

では、どういうシステムで対象者(患者さん)が処遇されるか確認しましょう。

 

 

問題

問題242 次のA、Bに当てはまるものを選びましょう。

申し立てを受けた裁判所は、国公立病院に付設する(A)に対象者を(B)入院させることになる。病院においては、精神保健判定医が再び対象行為を行うおそれについて(B)を行い、入院の必要性について意見を付する。

 

1.措置 2.専門治療施設 3.鑑定 4.大学病院 5.精神病棟

 

 

 

 

 

 

 

 

解答

問題242 解答

(A)ー2.専門治療施設

(B)-3.鑑定

(出典:よくわかる刑事政策 ミネルヴァ書房・p142~143)

 

 

いかがでしたか?

 

実は医療観察法の対象者はどこの精神病院に入れてもいい、ってわけじゃないんです。

所定の人員配置や施設がある専門治療施設に入ってもらう制度になってるんですが、実は、この専門治療施設が非常に少ないんです。

理由は、設置・維持になどに非常にお金がかかるからです。

(普通の精神病院よりも手厚い人員配置、警備体制などが求められます)

 

ちなみに、私の住む地域にも専門治療施設はありません。

なので、対象になった患者さんは、わざわざ専門治療施設のある場所に行き(すっごく遠くまで行く)、社会復帰するときは、元の居住地に戻る、という大移動をしなければならないことが多いんです。

結構、対象者も大変なんですよね~。

 

さて、専門治療施設に入った後に審判が行われます。

裁判官が保護観察所長に、対象者の生活環境の調査・報告を求めます。

そして、この報告に基づき、他害行為の有無、心神喪失心神耗弱状態の有無などを確認し、処遇を判断します(2011 藤本哲也 よくわかる刑事政策 ミネルヴァ書房・p143)。

 

では、最終的にどういう処遇があるのか確認しましょう。

 

 

問題

問題243 A、Bに当てはまるものを選びましょう。

①医療を受けさせるために入院をさせる旨の決定((A))

②入院によらない医療を受けさせる旨の決定((B))

③この法律による医療を行わない旨の決定

 

 1.入院決定 2.不処分 3.審判不開始 4.送致 5.通院決定

 

 

 

 

 

 

 

 

 

解答

問題243 解答

(A)ー1.入院決定

(B)-5.通院決定

(出典:よくわかる刑事政策 ミネルヴァ書房・p143)

 

 

いかがでしたでしょうか。

 

ちなみに、『よくわかる刑事政策』(藤本哲也ミネルヴァ書房)には、①~③の「いずれにも該当しない場合には、検察官による申し立てを却下することとしている(40条)」とあります。

つまり、全部で4つの処分に分かれるということですね。

 

では、入院決定と通院決定の具体的内容を確認しましょう。

 

 

問題

問題244 次のA~Cに当てはまるものを選びましょう。

 入院決定の場合には、厚生労働大臣が定める指定入院医療機関(国公立病院)にといて、専門的な医療を受けることになる。期間は(A)であり、医療機関は、(B)の診察の結果、入院の必要がなくなったと判断した場合には、保護観察所長の意見を付して、(C)に退院許可を申し立てなければならない。

 

 1.無期限 2.地方裁判所 3.家庭裁判所 4.6か月 5.精神保健指定医

 

問題245 次のA、Bに当てはまるものを選びましょう。

通院決定の場合は、厚生労働大臣の定める指定通院医療機関に通院させることになる。期間は(A)で、保護観察所長の申し立てにより2年以内の延長が認められる。保護観察所(社会復帰調整官)が対象者の生活の観察・指導を行い、通院の必要がなくなれば、指定通院医療機関の管理者と協議の上、(B)を申し立てることになっている。

 

1.通院継続 2.治療終了 3.5年 4.3年 5.社会復帰

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

解答

問題244 解答

(A)ー1.無期限

(B)-5.精神保健指定医

(C)-2.地方裁判所

(出典:よくわかる刑事政策 ミネルヴァ書房・p143)

 

問題245 解答

(A)ー4.3年

(B)-2.治療終了

(出典:よくわかる刑事政策 ミネルヴァ書房・p143)

 

 

いかがでしたでしょうか。

 

こうやって見ていると、医療観察法少年法と似た構造を持っているな、と感じます。

 

少年法が少年の保護、教育、社会復帰を目的にしていたのと同じように、

医療観察法も主に精神障害者の保護、治療そして社会復帰を目的にしています。

また、少年法に少年院など特別な処遇施設があるのと同じように、

医療観察法にも専門治療施設という特別な処遇施設があります(少年院などとくらべ、数が少なすぎますが)。

 

違うのは、少年法では家庭裁判所が審判を行うのに対し、医療観察法では地方裁判所が審判などに関わっている点でしょうか。

 

また、現任者講習会でも精神医学のところで出てきた、“精神保健指定医”が関わることもポイントだと思います。

精神保健指定医措置入院医療保護入院など本人の意思とは関係ない入院の他に、医療観察法でも重要な役割を果たします。

医療観察法による入院、通院治療が裁判所などの決定であり、対象者(患者さん)の意思とは関係なく行われるためと考えられます)

 

 

ところで、最後の問題で

「えっ?3年で通院終わりなの?その後、患者さんどうなるの?」

と思った、そこのあなた。

鋭いです(`・ω・´)

 

実は私の知る限り、居住地での通院処遇(通院決定)の3年間が終了すると、対象者(患者さん)は、ただの、普通の精神障害者、つまり患者さんになります。

もはや、裁判所や保護観察所の強制力が働かない、一般の患者さんです。

そして、当然、精神病院での治療においても患者さんの意思が尊重されるので、対象者(患者さん)が、

「自分は精神病じゃない。悪いことしてない。治療もしない」

と言って、治療をやめても止められません

リスボン宣言、説明義務、インフォームド・コンセントのエントリを参照のこと)

 

そうなると当然、病気の再発の可能性が高くなり、聞いたところによると、医療観察法の処遇終了後、再犯に至るケースもあるとか…。

 

また、被害者のフォローが欠けている点も、今後の見直しの課題になるかと思います。

(対象者(患者さん)が高い税金を使い、数年単位でフォローされるのに比べて、被害者には同じだけのフォローがされません)

 

ということで、実は今、医療観察法も見直しの時期に入っているんです。

 

 

今後、医療観察法も法の実効性、運用、人員配置などが検証され、変わってくると思いますし、被害者の損害回復をどうするか、ということも議論されるでしょう。

 

 

また、医療観察法は、精神医療と精神障害者福祉の歴史を踏まえて、初めてその意味が理解できると思います。

 

ぜひ、私宅監置、ライシャワー事件、宇都宮病院事件なども確認して、今後の医療観察法のあり方を考えて欲しいと思っています(´ω`*)。

 


よくわかる刑事政策 (やわらかアカデミズム・わかるシリーズ)

精神病者私宅監置の実況 現代語訳 [ 呉秀三 ]