注意義務と過失
私はダメダメ心理士日本代表である。
心理学だけでもダメダメなので、ましてや他の分野のダメダメぶりは今更説明する必要もないと思われます。
しかし、心理士として給料をもらっていく道を選んだ以上、勉強して公認心理師試験に受からなければなりません( ー`дー´)キリッ。
そして、難関の1つが民法なのですが、私の場合、「難関を後回しにすると、結局直前まで勉強せず慌てる」という愚の骨頂を繰り返すこと、間違いありません。
ということで、本日は先に公認心理師試験ブループリントp20にある、“注意義務”と“過失”についてまとめておきます。
民法における“注意義務”と“過失”の関係
先のエントリで民法において“説明義務”と“インフォームド・コンセント”がどのように定義づけられているか確認しました。
『民法講義Ⅴ契約法〔第3版〕』(近江浩司・著、成文堂)には医療における説明義務とインフォームド・コンセントについて非常に詳しく、かつわかりやすく載っていました。
(図書館などで本書にあたれる方は、一読することをおススメします)
しかーし…。
注意義務についてはいささか説明が弱かったんですよね。
『民法講義Ⅴ契約法〔第3版〕』(近江浩司・著、成文堂)p342には下記のような記述があります。
以下、引用ーーーー
(c)安全配慮義務
安全配慮義務は、一般的には、契約関係に入った当事者が、互いに相手方の生命・身体・財産的諸利益を侵害しないように負担する注意義務(独立注意義務)である。しかし、契約類型によっては、契約の本体的義務(給付義務)として位置づけなければならない場合がある。医療契約は、その典型であろう。
ーーーー以上、引用終わり。
うーん、イマイチ根本がわかりません…(*´Д`)。
ということで、注意義務をすっ飛ばし過失について調べたところ、ありました、ありました。
『民法講義Ⅵ事務管理・不当利得・不法行為〔第2版〕』(近江浩司・著、成文堂)に書いてありましたので、この本で確認しましょう。
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まず、『民法講義Ⅵ事務管理・不当利得・不法行為〔第2版〕』(近江浩司・著、成文堂)では“過失”の説明から入ります。
『民法講義Ⅵ事務管理・不当利得・不法行為〔第2版〕』(近江浩司・著、成文堂)p108には、
「不法行為責任は、自己責任として、加害者の故意または過失が必要である」
と書いてあります。
では、“故意”と“過失”の違いは何なんでしょう?
どうも、両者は法学者の間でも意見が分かれるようで、明確に区別できないようですが、『民法講義Ⅵ事務管理・不当利得・不法行為〔第2版〕』(近江浩司・著、成文堂)p121には、以下のような記述があります。
以下、引用ーーーー
「故意とは、損害の発生を認識しながら、その意思(加害の意思)をもって、あえて損害を生じさせる(=認容)行為である。過失との相違は、知らないで行為したか、認容して行為したかにあるが、認容の中核には“あえて行為をする”という「意思」(加害の意思)が存在している。したがって、故意による不法行為は、「意思」をその帰責根拠としており、行為義務違反と捉える過失不法行為とは、質的な差がある」
(※筆者注:下線は原文傍点が付された部分)
ーーーー引用終わり
要は、
“損害を与える意思があったか、なかったか”
というところでしょう。
では、“過失”と“注意義務違反”はどのように関係しているのでしょうか。
『民法講義Ⅵ事務管理・不当利得・不法行為〔第2版〕』(近江浩司・著、成文堂)p110によると、“過失”には法学的に“主観的過失論”、“客観的過失論”、そして“二重構造論”の3つの見解があり、“客観的過失論”の中で、“行為義務違反”が出てきます。
“行為義務違反”とは、“当該具体的な状況の下で行為者がとるべき行為義務認定し、それに違反していること”であり、“行為義務違反(注意義務違反)”とされています(『民法講義Ⅵ事務管理・不当利得・不法行為〔第2版〕』(近江浩司・著、成文堂)p110)。
さらに、p112には、“注意義務違反(結果回避義務違反)”と書いていることから、
行為義務違反=注意義務違反=結果回避義務違反
というところなんだろうな、と思います。
(私の知能の理解はここまでしか及びませんでした(*´з`)スミマセン)
注意義務違反と過失が認定されるのは、どういうとき?
「相手に対して不利益が被るとわかっていながら、それを回避する努力をしなかったとき注意義務違反(行為義務違反または結果回避義務違反)が生じ、それ故、過失が認定される」
というところまでは、少ない脳みそで理解できました(*´Д`)フー、ヤレヤレ。
では、具体的に、注意義務違反と過失が認定されるのはどういう場合なんでしょうか。
公認心理師と、どういう風に絡んでくるんでしょう。
『民法講義Ⅵ事務管理・不当利得・不法行為〔第2版〕』(近江浩司・著、成文堂)p113には以下のように書かれています。
以下、引用ーーーー
例えば、同じく自動車の運転手といっても、バス、トラック、自家用車、オートバイでは、それぞれの運転者の置かれる過失の内容が違ってくるし、医師など専門家には専門家としての注意義務が、また物品の製造業者にもそれなりの注意義務が課されよう。
ーーーー以上、引用終わり。
キター(*´▽`*)、“専門家”!
つまり、その専門や業界の水準に照らし合わせて必要な注意を払わないと、損害を与えたときに“注意義務違反”“過失”認定されちゃう、ってことですね。
また、『民法講義Ⅵ事務管理・不当利得・不法行為〔第2版〕』(近江浩司・著、成文堂)p113~114には
「過失の本質が「結果回避義務」違反(=客観的過失)であると捉えた場合、論理的には、その前提として、結果発生に対する「予見可能性」が要求されることになる。予見が不可能な場合には、結果の回避を期待できるはずもなく、また、709条は結果責任(無過失責任)ではないからである」
とあります。
つまり、「相手に損害を与えることを予め知ることができたかどうか」ということが問題になるんですね。
でも、“予見”って難しい概念ですね。
「そんなの常識的にわかるじゃん」
というのもあれば、
「いくら考えても、わからなかったよー」
ということ、日常的にありますよね~。
それを法律はどう解釈しているか。
『民法講義Ⅵ事務管理・不当利得・不法行為〔第2版〕』(近江浩司・著、成文堂)p115では「予見義務」について、(α)信頼性の原則、と(β)調査義務、を説明しています。
まず、(α)信頼性の原則は、交通事故でいうと「交通ルールを無視した異常な運転までも予見すべき義務はない」とする考え方ということのようです。
つまり、ルール違反をした行為に絡んで起こった損害については、その責任を負う必要はない、というところなんでしょうね(批判はあるようです)。
まあ、この辺は納得できます。
我々にとって重要なのは、(β)調査義務かもしれません。
『民法講義Ⅵ事務管理・不当利得・不法行為〔第2版〕』(近江浩司・著、成文堂)p115には、以下のような記述があります。
以下、引用ーーーー
特に危険な業務を行う者(企業)について、その行為が、他人の生命、身体、その他重大な被害をもたらす可能性がある場合には、その行為が安全であるか否かを「調査」し、安全である場合にのみその行為が許されるとする考え方が、公害、薬害、医療過誤などの領域において発展してきた。
ーーーー以上、引用終わり。
キター(゚д゚)!、医療過誤。
つまり、例え診療や治療行為でも、相手に危険が生じる行為をする場合は、安全確認をしっかりしなさいね、ということですね。
はー、この辺、心理士は弱いかもですね~。
スタンレー・ミルグラムの実験のように、危険な心理実験があることはみなさんよく知っていると思いますが、臨床での心理的支援で“クライアントや患者さんに損害を与える”可能性って考えること少ないんじゃないでしょうか。
少なくとも、これまでの臨床心理学では、心理検査や心理療法の侵襲性について教えたり、研究したりすることは少なかったと思われるので、今後検証と対策が必要になるのかもしれません。
さらに、『民法講義Ⅵ事務管理・不当利得・不法行為〔第2版〕』(近江浩司・著、成文堂)p117では、“他の行為規範との関係”にも触れています。
以下、引用ーーーー
(α)取締法規との関係
まず、行政上の取締法規が、一定の行為を禁止している場合がある。そこで、それに違反して損害を与えたという場合に、結果回避義務違反に違反したことになるであろうか。行政上の取締法規と民事不法行為責任とは規範の内容が別であるから、理論的には両者は無関係であるが、ただ、実際上、取締法規違反が結果回避義務違反となる場合が多い。(中略)したがって、そのような場合には、結果回避義務違反となり得る。
ーーーー以上、引用終わり。
つまり、公認心理師法に違反した場合は、即ち、民事法上の結果回避義務違反(注意義務違反)になりますよ、ってことですね。
公認心理師法には秘密保持義務、信用失墜行為の禁止、資質向上の責務、などがありましたが、こうしたことをきちっとしないまま、クライアントや患者さんの不利益につながる結果をもたらすと、注意義務違反で過失認定されちゃうよ、ってことですね。
次に、(β)業界の水準・慣行等についても記述があります。
以下、『民法講義Ⅵ事務管理・不当利得・不法行為〔第2版〕』(近江浩司・著、成文堂)p117~118より引用ーーーー
(β)業界の水準・慣行等
業界には、それぞれの業務行為の水準ないし慣行が存在している場合がある。(中略)医療関係において、2つの具体的問題がある。
第1は、「医療水準」の問題である。(中略)
①ある新規の治療法が医療水準にあるかどうかは、当該医療機関の性格、所在地域の医療環境の特性等の諸般の事情を考慮すべきである。
②新規の治療法に関する知見が類似の特性を備えた医療機関に相当程度普及し、かつ当該医療機関でもその知見を有することを期待することが相当と認められるときは、その知見は当該医療機関にとっての医療水準である。
第2は、「医療慣行」の問題である。判例は、医療水準は医師の注意義務の基準(規範)となるべきものであるから、平均的医師が現に行っている医療慣行とは必ずしも一致するものではなく、当該医師が医療慣行に従った医療行為を行ったからといって、医療水準に従った注意義務を尽くしたとはいえない。
〔▶→『契約法』「医療契約」「医療水準」(【Ⅴ】337頁)〕
ーーーー以上、引用終わり。
こ、ここで、先のエントリとつながりましたよ~。
(ぐるっと一周(*´Д`))
つまり、ちゃんと他の平均的な公認心理師が行う心理的支援と同程度の援助を行えるよう努力し、他の選択肢がないか説明し、云々云々…。
とういことです(笑)。
長かった…。
でも、よくわかったヨー。
ということで、自分なりにまとめてみます。
まとめ
①説明義務、注意義務、過失は一連の法的概念である。
特に医療行為は「医療契約」という相手の身体に侵襲的行為を行う、民法上特殊な契約であり、その実行には説明義務、注意義務について万全の注意を払う義務がある。よって、公認心理師も医療領域などで心理的支援を行うに当たっては、同等の義務を行う必要があり、これを怠ると過失と認定される。
②公認心理師法に規定されいている義務を怠ったり、禁止されている行為を行うと、即ち民法上でも注意義務違反、過失と認定される可能性がある。
③自分が行う心理検査や心理的支援の説明を十分に行い、クライアントや患者さんの同意を得ないと、損害を生じさせた場合、注意義務違反および過失が認定される。
④公認心理師法上、状況によって技法を変えることが必要としてある以上(公認心理師現任者講習会テキスト2018参照)、自分が得意とする技法にこだわってクライアントや患者さんに損失を生じさせると、説明義務違反、注意義務違反、および過失のいずれにも当てはまる可能性がある。
…こんなところでしょうか。
考えてみれば、今までは、精神分析、認知行動療法、遊戯療法などなど、いろいろな技法をそれぞれの専門家が独自の判断で行っていました。
精神分析専門の先生は認知行動療法は使わないことが多いし、遊戯療法が得意な先生は児童・青年期が専門なので、成人の心理療法はよく知らない、という場合もあったと思います。
これまでは、それでよかった。
臨床心理士のままだったら…。
でも、これからはそうはいかないってことです。
公認心理師になったからには、
そのクライアントや患者さんの状況にあった方法を適宜選択し、
自分の専門以外のアプローチもある程度勉強し、
自分の専門では手に負えなかったら、適当な専門家と連携せよ。
そうしたことができるよう勉強せよ。
ってことですね。
そして、
それができずに、クライアントや患者さんに損害が生じたら、
ということなんだと思います。
よくわかりました…。
私も肝に銘じます…。
大変長くなりましたが、心理士が国家資格になることの責任を十分認識し、業務に当たってまいりましょう~。
(長くなってスミマセン;つД`))
※「医療契約」「医療水準」の説明は、私の勉強では甚だ不足しているので、各自『民法講義Ⅴ契約法〔第3版〕』(近江浩司・著、成文堂)を読んでください。必読だと思います。