説明義務、インフォームド・コンセント
公認心理師試験のブループリントが公表されましたが、勉強するのに一番困ったのが、“保健医療分野に関する法律、制度”でした。
特に臨床ではほとんど民法の具体的内容に触れることがないで、存在は知っていてもどのように自分の臨床に関わっているのかわかっていませんでした。
ということで、今回は図書館に行って民法上の規定について調べてみたところをまとめておきます。
最初に「どの本に載っているか、どの本を見たらわかるのか」戸惑いましたが、民法の本を開いたら案外簡単に見つかりました。
参考になったのは『民法講義 (5) 契約法第3版 成文堂』です。
ブループリントにある“説明義務”は契約法の範囲で規定されているようで、『民法講義 (5) 契約法第3版 成文堂』には医療における説明義務などが詳しく書いてあり、大変参考になりました。
以下、この本をもとにまとめてみましょう。
まず、説明義務については下記のように書かれています。
以下、『民法講義 (5) 契約法第3版 成文堂』p339より引用ーーーー
医師の義務 (b)説明義務
医師は、患者に対して、その病状がいかなるものか、いかなる治療を行うのか等の説明すべき義務を負っている。医療行為とは、患者の身体に対して不可逆的な侵襲を加える行為であって、それは、唯一、患者の自己決定と承諾を基礎として合法化されるものだからである。
以上、引用終わりーーー
なるほど。
確かに医療とは患者さんの体に対し侵襲的な行為をします。
だからこそ、その行為をするにあたっては侵襲的な行為を受ける患者の“自己決定”と“承諾”が必要なのですね。
次に、議論は診療記録、つまり“カルテ開示”と“知る権利”に移ります。
以下、『民法講義 (5) 契約法第3版 成文堂』p339~340より引用ーーーー
逆から言えば、患者は、自己決定に結びつくところの、自分の身体の症状につき「知る権利」があるというべきである。
i 一般医療情報提供義務
医師は、診療をした以上は、患者の病状、処方の開示、薬剤の効用や禁忌・副作用等の情報を、提供する義務がある。
問題なのが、カルテの開示である。医師は、診察した場合には診療録(カルテ)を作成する義務がある(医師24条)。しかし、その閲覧を請求することは、患者本人であっても実体法上は認められていない(東京高判昭61・8・28判時1208号85頁)。
(中略)
訴訟の場合と、通常の開示請求とでは意味が違うのであり、患者は、自己の身体の症状について「知る権利」があり、客観的データとしてカルテの開示は認められなければならない。
以上、引用終わりーーー
患者さんに「知る権利」があるからこそ、医療者はどういう治療を、どういう理由で行ったかなどを診療記録、つまりカルテに記録し、さらに必要があれば開示する義務があるのですね。
次にインフォームド・コンセントについてです。
以下、『民法講義 (5) 契約法第3版 成文堂』p340より引用ーーーー
最も重要なのが、治療に際しての患者の「同意」を得る前提である説明義務、すなわち「インフォームド・コンセント」法理(Informed Consent Doctrine)である。インフォームド・コンセントは、Information(情報・説明)が与えられたConsent(同意)ということであるが、患者の「同意」を得るためには、医師は、十分な説明をしなければならない。
以上、引用終わりーーー
ふむふむ。
先ほど、医療行為について「医療行為とは、患者の身体に対して不可逆的な侵襲を加える行為であって、それは、唯一、患者の自己決定と承諾を基礎として合法化されるものだからである。」とありました。
この文を踏まえると、
①医療行為が成立するためには患者の“自己決定”と“承諾”が必要
②“自己決定”と“承諾”の前提となる情報を患者に提供するために、“情報・説明”が必要であり、ここに医療では“説明義務”、つまり“インフォームド・コンセント”が必要になる
言うことができます。
さらに、なんでも説明すればいいのではなく、説明に当たっては下記の基準が示されています。
以下、『民法講義 (5) 契約法第3版 成文堂』p341~342より引用ーーーー
では、医師が患者に対してすべき「同意のための説明」の内容は何か。ジョージ・J・アナスは、医師の説明すべき内容を、次のようにいう(ジョージ・アナス/上原鳴夫=赤津晴子訳『患者の権利』15頁以下)。
(α)医師が勧める治療または処置に関する概要の説明
(β)勧める治療・処置の、リスクと便益の説明、とくに、死亡や重大な身体障害のリスクについての説明。
(γ)別の治療方法や処置を含め、勧める治療・処置意外にどんな選択があるかの説明、およびそれらについてのリスクと便益の説明
(δ)治療を行わない場合に想定される結果
(ζ)成功する確率、および何をもって成功と考えているか
(η)回復時に予想される主要な問題点と、患者が正常な日常活動を再開できるようになるまでの期間
(θ)信頼にたる医師たちが同じ状況の場合に通常提供している、上記以外の情報
以上、引用終わりーーー
まとめると、
①治療内容
②治療のメリットとデメリット、特に死亡の可能性など重大なリスクの説明
③他の治療選択肢の有無
④その治療法を選択した理由
⑤治療目標と成功の可否
⑥治療期間
⑦他の専門家の意見
ということが説明されなければならない、ということですね。
心理士はどうしても自分が勉強したアプローチを漠然と選択しがちですが、「どうしてそのアプローチを選択したか」「効果の可否」「そのアプローチを利用する期間」「クライアントに対するメリットとデメリット」「他の専門家の意見」などをきちんと、説明できるようになる必要があるのですね。
こう書かれると、当然と言えば当然のことなのですが、今まで臨床心理士の教育では見落とされていた部分だと思われます。
公認心理師では動機付け面接やCBTなど複数の面接方法を組み合わせることが推奨されているようですし、自分が日ごろ使っているアプローチやその理論を再確認する必要があるのかもしれません。
私も勉強し直します。